鋏の基本構造の扉◆2◆

「交点圧力の方法」


交点に圧力を加える要素は大きく2つあります。

1つはネジです上記でも説明した通り、単純にネジを強く締め付けて行くほど交点圧力は上昇します。この交点圧力が上昇することで髪への刃の食い込みを強くできるわけです。
もう1つは人偽的な要素で、「こじり」です。切れない鋏で無理に切ろうとするとき、親指で指穴を押し付け、刃同士が強く擦れるようにする事がそれにあたります。
しかし、「こじる」という動作を前提とした考え方は、鋏自体の力学的性能とは別の要素であるため、この動作が無い状態を前提に考えるべきでしょう。


「てこの原理の利用について」


それでは、「こじる」という人偽的な要素を除いて考えた場合の状態で、一般的な「てこの原理」で定義されている支点、力点、作用点部分は、鋏のどの部分に相当するのでしょうか?


「支点」


まず、支点は鋏専門用語で言われる、「触点」と言う部分となります。
鋏の性能を考える時、この「触点」が重要部分であるといわれているのは、実際に鋏で髪を切断しようとする時に、切断されようとしている髪が2つの刃と刃の間に入り込み、その刃と刃を押し広ようとする力が発生します。
その「押し広げられよう」とする力を支える部分が触点(支点)であり、その触点面が不安定では安定的な切れは実現されません。


「力点」


それでは、力点は鋏のどの部分に相当するのでしょうか?それはネジ圧そのものと言えます。
つまり、「弓なりに反った板状のもの」をお互いに向き合うようにネジで留めつけてあるわけですから、そのネジを締め付ける事自体が力点の役割を果たしています。その力が板状のものが互いに反発しようとする力に変換され、その圧力が交点に発生して効率の良い切れを実現するわけです。


「作用点」


それでは、作用点はどうでしょうか?
それは、「刃の交点」ということになります。つまり、髪の切断という目的を果たす部分ということになります。


「鋏の良し悪しを左右する「裏梳き」「ひぞこ」とは!」


それでは、「交点」の圧力を上昇させるためのもう一つ要素を説明しましょう。
鋏の特徴として2つの板状のものが重なり合っていることは理解されていることと思います。そしてその重なり合った部分「交点」の圧力が高いほうが、髪への食い込みが良好であるわけですから、その「交点」の面積は小さい方が有利であることが分かります。

つまり、「鋏が動く程度」というネジの締め付け力が限定されるわけですから、その範囲においては「交点面」が小さいほど「交点圧」は高くなるわけです。


そのような状態にするために、鋏の向き合った側(鋏の裏側)は「ひぞこ」という窪みが作られています。この「ひぞこ」を形成するために「裏梳き」という作業が施されます。
鋏は板状なわけですから、「ひぞこ」を形成しないと板状の全面で重なることになり、ネジの締め付け圧力は板状の面、全体に分散します。
しかし「ひぞこ」を形成し、重なる面を小さくすれば、「交点」の圧力は上昇することになります。
このように「裏梳き」作業によって形成された窪みを「ひぞこ」と言い、重なる「交点面」を「裏刃」と言います。


それではこの「裏刃」はどのように形成されるべきなのでしょうか?


この「裏刃」は刃元から刃先まで一定の面で形成されなければなりません。

つまり、刃元から刃先まで同じ幅で形成されるべきです。それは「裏刃」の幅が変化したのでは、交点圧も比例して変化し、さらには切れ味も変化するからです。そのような鋏は実際に使用してみると決して良好な切れ味とは実感出来ないでしょう。さらに、鋏は切れが低下する道具なので、「研ぎ」が必要になります。その「研ぎ」の作業においては、「裏刃」の再形成を行う必要がありますが、その時に「裏刃」の幅が不均一になるような「ひぞこ」では安定した切れを再現できません。

従って「ひぞこ」が精密に形成されている必要があります。

以上が基本的な鋏の構造です。
さらに、切れに関しては「刃線」や「刃角度」などがあります。
それらについても理想の形態が考えられていますが、鋏の形態や使用用途などの違いにより、一概には定義づけられません。
また、鋏の材質や熱処理の方法においても、切れ味には大きな影響を及ぼすと考えられています。
そうした分野においても研究が進められております。